(天声人語)甘党、辛党、巨大与党
2017年4月27日05時00分
「ピリ辛宣言 私は辛党」。自民党が公式サイトで「辛党仲間」を募集している。今月末、千葉?幕張メッセで開かれる恒例イベント「ニコニコ超会議」にブースを出し、来場者に党本部の食堂と同じ味のカレーをふるまうそうだ▼「無責任にみんなに甘い顔をするのはカンタン。でも、ピリ辛にならなきゃいけない時もある」「甘党では日本を守れない」。うたい文句が勇ましい▼自民党カレーなら、筆者も食べたことがある。取材のついでに党本部最上階の食堂に入った。福神漬けの添えられた親しみやすい味だったが、辛口だった記憶は少しもない。せいぜい中辛という印象だった▼現政権の内輪に対する姿勢にもスパイスが著しく足りない。現状を味にたとえるなら極甘(ごくあま)だろう。防衛、農水、沖縄北方、地方創生など各大臣がどんな失言をし暴言を吐こうと、「緊張感を持って職務に」という注意だけで済ませてきた▼「あっちの方だったから良かった」。東北の被災者の心を踏みにじる復興相まではさすがにかばいきれなかった。本来は3週間前の失言の段階でけじめを付けておくべきではなかったか。原発事故の自主避難者が故郷に戻れないことを「本人の責任」と切り捨てた当人である▼甘味、塩味、酸味、苦味、旨味(うまみ)――。食品科学ではこれら五つを人の「基本味」と呼ぶ。酸いも苦いもあってこそ人の営みなのに、現政権は甘さばかりが先に立つ。身内に甘い体質を満天下にさらしておいて「辛党宣言」はないだろう。