チャレンジ2
俳句について
浅井 慎平
一か月に一度か二度、俳句の会に出かける。俳句は日本の伝統的な詩の様式であることはたぶんあなたもご存じだろう。五文字、七文字、五文字の三つのフレーズで詩を書くのだ。いくつかの基本的約束があって、その十七文字のなかに季節の言葉を入れることになっている。いまは、ちょうど春だから、たとえば春の雨とか春の風という直接季節を入れてつくることもあれば、菜の花とかすみれの花をうたうこともある。
俳句はたった十七文字しか使わないので、たくさんの省略や読む人のイマジネーションにゆだねることが多い。そこがむずかしいし、おもしろい。だから解釈をめぐって、さまざまな議論も生まれる。
「古池や 蛙飛び込む 水の音」という松尾芭蕉の有名な俳句の蛙は一体何匹なのか。日本語の蛙には複数を表わす法則がないから、外国人はとまどってしまう。訳し方によっては蛙にSがついてしまうから、何匹もの蛙が池に飛び込んだことになる。
ところが多くの日本人は、この句を読んで一匹だと察する。なかにはそうではないと考える人もまれにはいるが、そういう人は少ない。入学試験で、「蛙は何匹か」ときかれれば、一匹と答えるのが正解だとされるだろう。これは変な話だといえば、そのとおり変だけれども、日本人はそんな風な感性を持って生きている。もちろん、こんなことが俳句のテーマではなない。そういえば菜の花を読んだ句にも有名なものがある。
「菜の花や 月は東に 日は西に」という句だ。これは与謝蕪村の句だけれども、誰にもすぐわかるだろう。蕪村はたぶん菜の花畑に立っている。昼問がやがて終わろうとしている。だから太陽は西に沈んでゆきつつある。すると月が東の空に昇ってくるのだ。とても十七文字が表わす世界ではないように見える。しかし、すぐれた俳人は、それを十七文字にとじ込めてしまう。俳句が、現代にまでつづき、たくさんの人々をひきつけているのもうなづける。とくに日本は四季を持つ国なので、自然の移ろいや行事、習憤が複雑である。日本人は、そのときどきの思いを十七文字にたくして楽しんできた。
ところで、近頃は季節にかかわらずさまざまなものが目の前に現われる。昔は夏にしか見なかったトマトやキュウリが真冬にも八百屋の店先にある。こういうとき俳句をつくるのは困るが、困ったことを書けば、また俳句になるということもおもしろい。
(『日本語教育通信』22号 国際交流基金日本語国際センター)
注釈
1.俳句(はいく):日本独自の短詩型文芸で、季語を含み、5・7・5の三句の定型からなる。2.フレーズ:ひとまとまりになった単語のつながり。 3.イマジネーション:想像力 4.むつかしい:難しい 5.松尾芭蕉(まつおばしょう):1644~1694。有名な俳人。代表作に「奥の細道」なdo がある。 6.与謝蕪村(よさぶそん):1716~1783。絵画的で印象鮮明な句をたくさん詠んで俳人 としての立場を確立、代表作に『新花摘』などがある。 |
練習問題
1.「古池や蛙飛び込む水の音」から受けた感を話しなさい。
2.季節の表現に使える動物や植物の名前を挙げ溶さい。
3.「菜の花や 月は東に 日は西に」から受けた色のイメージを話しなさい。
4.一番印象に残っている日本人作家の名前および代表作を言いなさい。
5.あなたの知っている俳句をみんなに紹介しなさい。
マスに仮名を一つずつ入れて、俳句を作ってみましょう
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