(天声人語)浅田真央の引退
2017年4月12日05時00分
あの王貞治さんにして、この後悔である。本塁打の世界記録を打ち立てた後、40歳で現役選手を退いたことについて「今も悔いが残っているのです。できるなら自分の人生を書き換えたいくらいにね」と著書で振り返っている▼あと3年は続ける自信があったが、満足のいく活躍ができずに、みじめな姿をファンに見せるようなことはしたくなかった(『野球にときめいて』)。早すぎれば悔いを残すが、遅すぎるのも避けたい。引退の決断は憧れを一身に背負う選手であるほど悩ましいのだろう▼フィギュアスケートの浅田真央さんは3年前のソチ五輪で6位に終わった後、休養期間を設けた。「その時に選手生活を終えていたら、今も選手として復帰することを望んでいたかもしれません」と引退を表明した一昨日のブログにあった。最後までもがいた26歳の重い言葉である▼思うような成績が出ない時、色紙にメッセージを求められたことがある。「何て書いたらいいかな。『やればできる』かな。でも、今の真央に言われたくないよって言われるかもしれないですよね」。そう言いつつ「日進月歩」と書いた。練習を重ね前に進む自らの姿勢であろう▼あの笑顔もつらい涙も、ずっと日本中が見守ってきた。天才少女として躍り出た幼い日があり、鮮やかな跳躍を見せてくれたいくつもの舞台があった。失敗してもあきらめない姿が、人びとを勇気づけた▼お疲れさま。本当に。いまはどれだけ言っても、言い足りない気がする。